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Louis I.Kahn Houses―ルイス・カーンの全住宅:1940‐1974
![]() | author: 斎藤 裕 asin: 4887062281 binding: ハードカバー list price: ¥ 4,935 JPY amazon price: ¥ 4,935 JPY |
フランク・ロイド・ライト、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエら、近代建築のいわゆる巨匠の時代が終わったあと、彼らの影響圏から離れ、真に独自の建築を作りえた「遅れてきた巨匠」ルイス・カーンの住宅作品を集めた本である。カーンの代表作と言えばキンベル美術館、ソーク研究所など比較的大型の建築の名が挙がるだろうが、しかしカーンがこつこつと作り上げた住宅はそれらに勝るとも劣らぬ魅力を持つ。キンベル美術館のような傑作が重要であることは間違いないが、たとえばフィッシャー邸やエシェリック邸を抜きにしてカーンという建築家を語ることはできないだろう。しかしこれまでカーンの住宅作品についての十分な日本語の資料はなかった。多くのカーンに関する書物がその住宅作品についてはせいぜい小さな図面と写真数枚を紹介する程度で、バランスに欠ける傾きがあったことは事実であろう。こうした不均衡を一気に解決する1冊である。 カーンの住宅に接近するためには、とりわけ図面を参照しながら時間をかけて読み解くことがどうしても必要になる。その緊密なプロポーションの構成、思慮深く練り上げられた空間の充実、そして年月を経て現在もなおみずみずしさを失わないマテリアルの取り合わせ、どれをとっても表面的に眺めるだけではとらえることのできない深さを持っている。四季折々の豊かさを見せる美しい写真とともに各種の図面が丁寧に折り込まれ、たとえばフィッシャー邸ひとつのために実に60ページを費やすという、まさに徹底的なドキュメントである。一つひとつのページをめくるたびカーンの建築の圧倒的な密度にあらためて驚かされるだろう。 同時に感嘆せざるを得ないのは、建てられてから50年近くを経たカーンの20件の住宅が丁寧にメンテナンスされて今もなお美しい姿を保っていることだ。そこには確かに愛されている建築の姿がある。多くの建築家の住宅が歴史に翻弄されあるいはトラブルに巻き込まれ、残念な姿を見ることは決して少なくない。しかしここに集められたカーンの住宅の状態の良さには驚くべきものがある。とりわけフィッシャー夫妻が建設当時を振り返って語るコトバは建築の幸福とでも言うべきなにかを雄弁に物語っているだろう。カーンはそれを与ええたし、彼らはそれを享受できた。そして本書において、読者はその片鱗に触れることができるはずだ。(日埜直彦)
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